手に入れてくれた座席は1階席の、熱狂的ファンの多く居るゴール裏の一角の一番後ろ。
屋根のある席なので、2階席からとんでくるものから身を守る必要はない。
今は禁止されたけれど、つい最近までは発煙筒を持ってきている人がいたので
それが飛んでくる危険もあったらしい。
試合開始には30分ほど時間があるのに、一時も座らずにフェンス越しに応援している人々。
「あの人たちは、座って見られないのよ」と少し軽蔑の混じったトーンで右隣が言う。
左隣に席がある男性二人も立ったままで背もたれに腰をかけているものの、座ることはない。
屋外だからなのか、みんな煙草を吸う。煙は私の前の女性に直撃しているので、私は何を逃れた。
ここの時空は、本当に2011年なのかな?と思う。でも嫌いじゃない。
正面の反対ゴール裏の席も同じチームを応援する人たちの席なのに、
すでに彼ら同士で応援合戦が始まった。
ディジョン・ファンはといえば、ごく小さい範囲の一角に陣取っているけど、
圧倒的に人数が少ないのでおとなしく見える。
ディジョンは去年2部リーグから1部リーグにあがったばかりのチームだからね、と教えて貰う。
ちなみに、半分目当てだった松井選手は登録なし。
スターティングメンバーの発表となると、同僚が仕事の合間に(?)
せっせと作ってくれた背番号と選手名のカンニングペーパーが役立つ。
本当にファンの人と一緒に行くと、色々と教えてもらえて何かと勉強になる。
続く相手チームのメンバー発表は最初からすごかった。
アナウンスがディジョーンと叫べば、ファンはいっせいにスラングを叫ぶ。
こんな敵対心丸出しの応援は初めて見た。
試合が始まると、サッカー場というのは広いんだなと当たり前なことを感じた。広い。
試合は、前半の30分過ぎまで良い感じで競り合う試合。
2部リーグからあがってきたばかりの割には互角じゃない?と聞くと、
彼女はそうねと言うけれど、どうも肯定したくはない様子。
「この前まで2部だったくせに!」って、爆笑。そんな。
周りのファンたちもそろそろ苛立って来た頃。
壁際にいる数人が壁をガンガンたたく。彼らは口を開けばスラングばかりだけれど、まあ愛嬌はある。
向こう側のゴール前でごっちゃになった瞬間、ボールがすっと抜けて待望の1点。
瞬間、全員が立ち上がって諸手を挙げて大歓声。
ハーフタイムは子供のチームのミニゲーム。
そんなチームにも声援を送る熱心なファンたち。
へぇ~良い所あるなぁと感心したのもつかの間、やはり対戦相手のチームには
子供だろうとブーイングの嵐。同僚と二人で「そんな!!! 子供にまで?」と驚きあう。
「子供のころから洗礼が必要なのよ」ということで納得する。これも練習のうちと。
後半戦も同じくギリギリまで互角の試合。またまたファンが苛立ち始めた。
せっかく私の目の前のゴールだからこっちで1点くらい入れてもらいたい。
煮え切らない合間におやつを食べ始めたけれど、まわりで何か食べてる人は皆無。
一応売店で食べ物は売っていたけれど、実際食べてる人がいない。
ファンも真剣に戦うのがフランスの観戦スタイルなのかどうか。
ちょっと気を抜いた瞬間に、ゴールが決まった。
38分くらい。この時間の2点目で大いに盛り上がり、そして落ち着く。そのまますんなりと試合終了。
おとなしめのディジョンでこの感じなら、宿敵OMとの試合はもっと大変で危険かもね、と真面目に言う。
身の危険を感じる観戦。そんな娯楽がこの世にあったとは。
日曜の夕方の2時間ほど、いつもと全く違う世界を見たと思う。
滅多に近寄らないタイプの人たちの中に自分がいるというのが不思議だった。
試合よりもファンを見るのが面白いよ、と言っていた同僚の言葉は本当にそうだと思う。
まるでそれが仕事かのように、真剣に試合を見る人々。 ファンは大切に。